2-15 品質の計画
概要
プロジェクトの品質として,ステークホルダの期待及びプロジェクトの成果物への要求事項を満たす必要がある。このために,プロジェクトの成果物,活動及びマネジメントのプロセスに適用する品質要求事項及び規格,並びに顧客の満足度を明確にした上で,組織の品質方針や個別システム化計画からの所与の品質要求事項を勘案して,プロジェクトの品質要求事項や規格を満たす方法を確定する。
要求事項に不安定性がある場合,要求事項を顧客と合意して実現しても顧客の満足度が上がらないおそれがある。このような場合,システムのリリースによって真の顧客の要求事項が認識されることがある。したがって,要求事項に不安定性がある場合は,優先順位の高い要求事項に基づき開発したシステムをリリースして,顧客や顧客視点をもつステークホルダが要求事項を検証するなどの,段階的に顧客満足度を評価する対応が必要になる。また,品質保証と品質管理の遂行方法,品質管理の指標を決定し,準拠すべき開発標準との整合を確認する。さらに,品質保証と関連の深い構成管理,について計画する。また,計画した品質マネジメントを実施するための方法論,技法及び資源を決定する。
プロジェクトのスケジュールに沿って実施するレビューの種類,責任及び参加者を含めて,全ての品質情報をまとめて品質計画を作成する。
- 引用
- 情報処理推進機構 「プロジェクトマネージャ試験(レベル4)シラバス- 情報処理技術者試験における知識・技能の細目 Ver.7.1(2023年12月25日掲載)
- https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/nq6ept00000014gb-att/syllabus_pm_ver7_1.pdf
200字要約
プロジェクトの品質管理では、ステークホルダーの期待や成果物の要求事項を満たすため、品質要求事項や規格を明確にし、適切な品質管理方法を確定する必要がある。要求事項に不安定性がある場合、優先度の高いシステムを段階的にリリースし、顧客が検証することで、段階的に顧客満足度を評価する。また、品質保証や品質管理の方法、指標、開発標準との整合性を確認し、全ての品質情報をまとめた品質計画を作成する。
プロジェクトの品質要求事項
プロジェクトの品質要求事項(Quality Requirements)とは、プロジェクトの成果物やプロジェクト遂行のプロセスに関して、品質に対して満たすべき条件や基準のことです。これらの要求事項は、プロジェクトの成功や顧客満足を保証するために、品質の観点から設定されます。
1. 品質要求事項の定義と重要性
- 定義:
- プロジェクトの成果物(製品やサービス)が達成すべき性能、機能、信頼性、耐久性、安全性などの特性に関する具体的な基準や条件。
- プロジェクトのプロセス(計画、設計、開発、テスト、納品など)が遵守すべき標準や手順。
- 重要性:
- 品質要求事項を明確に定義することで、プロジェクトチームは顧客やステークホルダーの期待を理解し、それに応じた成果物を提供できます。
- 明確な要求事項があることで、品質の評価やテスト、監査などを適切に行う基準が設定され、プロジェクトのリスクが低減します。
- 品質要求が満たされない場合、顧客の不満やプロジェクトの失敗につながる可能性が高くなります。
2. 品質要求事項の分類
品質要求事項は、大きく分けて「成果物に関する要求」と「プロセスに関する要求」の2つに分類されます。
- 成果物に関する品質要求事項
- 機能要求: 製品やサービスが特定の機能を実行するために必要な条件。例:ソフトウェアの操作性や機能範囲。
- 性能要求: システムや製品の処理速度、応答時間、容量などに関する基準。例:システムのレスポンスが1秒以内であること。
- 信頼性要求: 製品やシステムが正常に動作し続ける能力に関する要求。例:稼働率99.9%以上。
- 耐久性要求: 製品がどれだけ長期間にわたり機能を保持するか。例:電子機器の平均故障間隔(MTBF)が10,000時間以上。
- 安全性要求: 製品やシステムが安全に使用できることに関する要求。例:機械装置の緊急停止機能の有無。
- 互換性要求: 他のシステムや環境と適切に連携できること。例:特定のソフトウェアプラットフォームとの互換性。
- プロセスに関する品質要求事項
- 開発プロセス要求: 開発手法やプロセスに関する規定。例:アジャイル開発を使用し、スプリントごとに成果物をレビューする。
- ドキュメント要求: 必要な文書や記録に関する要求。例:すべての要件を要件定義書に文書化すること。
- 管理プロセス要求: プロジェクト管理手法やツールの使用に関する要求。例:プロジェクトの進捗を週次のステータス報告書で管理する。
- テストプロセス要求: テストの実施方法や基準に関する要求。例:すべてのユニットテストケースでカバレッジ80%以上を達成すること。
- 監査要求: プロジェクトの監査プロセスに関する要求。例:四半期ごとに内部監査を実施し、監査結果をプロジェクト会議で報告する。
3. 品質要求事項の設定方法
- 要求事項の収集:
- 顧客やステークホルダーとのインタビュー、ワークショップ、アンケートなどを通じて、品質に関する期待や要件を収集します。
- 要求事項の文書化:
- 収集した品質要求を具体的かつ測定可能な形で文書化します。これにより、テストや監査で評価可能になります。
- 優先順位の設定:
- すべての要求を満たすのが難しい場合、重要度やリスクに基づいて優先順位を設定し、リソースを最適配分します。
- 品質基準と規格の参照:
- 業界標準や国際規格(ISO 9001、CMMIなど)を参照し、要求事項に反映させる。
- 要求事項の合意と承認:
- 作成した品質要求事項は、顧客や主要なステークホルダーと合意を取り、正式に承認を得ます。
4. 品質要求事項の管理と変更
- 要求事項の追跡:
- 要求事項の変更や追加に対応できるよう、管理システムやトレーサビリティマトリックスを使用して要求を追跡します。
- 変更管理プロセス:
- 品質要求の変更が発生した場合、その影響を評価し、必要な場合は変更を承認し、計画に反映させます。
5. 品質要求事項の検証と確認
- 検証:
- プロジェクトの途中で、設定した品質要求事項に対して成果物やプロセスが適合しているかを確認します。
- 確認:
- プロジェクトの終了時に、最終的な成果物がすべての品質要求を満たしていることを確認します。
品質要求事項は、プロジェクトの全体的な成功に直結する重要な要素であり、これを明確に定義し、管理し、達成することがプロジェクトの品質管理において非常に重要です。
プロジェクトの品質計画に必要なこと
プロジェクトの品質計画は、プロジェクトの成果物やプロセスが所定の品質基準を満たすことを確実にするために必要な手順や基準を定める計画です。以下は、品質計画に必要な主要な要素です。
1. 品質目標の設定
- プロジェクトの成功を測定するための品質基準を設定します。
- 例えば、製品の性能、耐久性、ユーザーの満足度、法的・規制の遵守などが考えられます。
2. 品質管理体制の構築
- プロジェクトチーム内で誰が品質の責任を持つか、また品質管理プロセスにどのように関与するかを明確にします。
- 品質管理者(品質保証マネージャーなど)を任命し、その役割や責任を定義します。
3. 品質基準の定義
- プロジェクトで達成すべき具体的な品質基準を明確にします。
- これには、顧客の要求や業界標準、内部の品質ガイドラインなどが含まれます。
4. 品質管理プロセスの策定
- 品質を管理するためのプロセス(例:監査、テスト、レビュー)を定め、それを実行するタイミングを計画します。
- 品質管理プロセスには、次のようなものがあります:
- 品質保証活動(QA): プロセスが適切であることを保証するための活動。
- 品質管理活動(QC): 具体的な成果物が規定の品質基準を満たしているかを確認する活動。
5. 品質測定方法の設定
- 品質を評価するための指標(KPIや品質メトリクス)を設定し、それらを測定する方法を定義します。
- 例:欠陥率、顧客満足度、テストの合格率など。
6. 検査とテストの計画
- プロジェクトの各段階で実施する検査やテストの内容、タイミング、担当者を計画します。
- テスト計画は、テスト項目やテストケース、テスト実施の条件を含めて詳細に定義します。
7. 品質改善の計画
- 品質問題が発生した場合の対応計画を定め、継続的な品質改善の仕組みを導入します。
- 改善計画には、根本原因分析、対策の実施、再評価のプロセスが含まれます。
8. 品質ツールと技法の選定
- 品質管理に使用するツール(例:シックス・シグマ、魚の骨図、フローチャートなど)や技法(例:デザインレビュー、ウォークスルーなど)を選定します。
9. リスク管理との連携
- 品質リスクを特定し、それを管理するためのリスク対策を品質計画に統合します。
- 品質上のリスクの例には、欠陥の発生、検査工程の遅延、顧客の要求変更などが挙げられます。
10. 品質計画書の作成と共有
- 上記の要素を統合して、品質計画書(Quality Management Plan)を作成し、プロジェクトチームや関係者と共有します。
品質計画は、プロジェクトの開始段階で作成し、プロジェクトの進行に応じて見直しや更新を行うことが重要です。これにより、プロジェクトの成果物が常に要求される品質基準を満たすことが保証されます。