システム監査の計画における中長期計画の策定について説明します。
システム監査の基本から確認していきましょう。
1-1 中長期計画の策定
概要
経営目標の実現に向けて,情報システムのガバナンス,マネジメント,コントロールの向上やコンプライアンスの確保について効果的かつ効率的に検証・評価するために,中長期の経営戦略,情報戦略,情報システム計画などに対応したシステム監査の中長期計画を策定する。中長期計画には,中長期の監査方針,主要な監査対象領域,システム監査技術者の人員計画・人材育成計画,予算を記載する。また,経営戦略の変化,トップマネジメントの方針の変更など計画変更管理を盛り込む。この計画は,トップマネジメントによって適切な内容検討がなされた後に承認が得られる。
- 引用元
- 情報処理推進機構 「システム監査技術者試験(レベル4)シラバス- 情報処理技術者試験における知識・技能の細目 Ver.6.1(2023年12月25日掲載)
- https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/nq6ept00000014b0-att/syllabus_au_ver6_1.pdf
システム監査とは
システム監査は、情報システムが適切に運用され、リスクが管理されているかを確認・評価するプロセスです。情報の信頼性やセキュリティ、システムの可用性、機密性を確保することが目的で、主にリスク評価、内部統制の確認、テストや分析を通じて行われます。監査結果は報告書としてまとめられ、改善点の提案や組織の意思決定に役立てられます。システム監査は、システムの信頼性向上と組織の目標達成を支援する役割を果たします。
システム監査の中長期計画
組織の経営目標を実現するために、情報システムのガバナンス、マネジメント、コントロール体制を効果的かつ効率的に評価・検証する計画です。具体的には、中長期的な経営戦略、情報戦略、情報システム計画に基づき、監査活動を組織の目標達成に向けて調整・連携させることを目指します。 この中長期計画では、リスクの高いシステム領域や重要性の高い業務プロセスを優先的に監査対象とするほか、コンプライアンスを確保し、システムの信頼性と効率性を向上させるための改善点を発見する役割も担います。これにより、システム監査は単なるチェックではなく、ガバナンス強化や業務プロセスの最適化、組織全体のリスク軽減に寄与するものとなります。 また、中長期計画を通じて、監査に必要な人材や技術を計画的に育成・確保することで、安定的な監査体制が整い、監査の質を維持しつつ経営目標の実現を支援します。
システム監査における中長期計画書の役割と必要性
システム監査の中長期計画書は、組織の情報システム全体の安全性を確保し、その有効活用を図る上で、羅針盤のような役割を果たします。単年度の監査計画とは異なり、より広範な視点から、組織の将来的な情報システムの姿を描き、監査活動の方向性を定めるための重要な文書です。
中長期計画書の役割
- 方向性の明確化: 組織のIT戦略と連携し、監査活動の長期的な目標を明確にします。
- 資源の最適配分: 監査対象の優先順位付けや、監査リソースの最適な配分を計画することで、効率的な監査の実現を支援します。
- リスクの予防: 将来的なリスクを予測し、事前に対策を講じることで、情報システムへの影響を最小限に抑えます。
- 監査体制の強化: 監査に必要な人員やスキル、ツールなどを計画的に整備し、監査の質の向上を目指します。
- 組織への貢献: 監査結果に基づいた改善提案を行い、組織のITガバナンスの強化に貢献します。
中長期計画書が必要な理由
- 複雑化する情報システム: 情報システムは日々進化しており、その複雑化に伴い、監査対象も多岐にわたります。中長期計画書は、このような複雑な状況下でも、体系的な監査を実施するための指針となります。
- 長期的な視点: 単年度の監査では捉えきれない、長期的な視点でのリスク管理や改善活動が求められます。中長期計画書は、組織のIT戦略と連動し、長期的視点での監査を可能にします。
- 効率的な監査の実現: 監査対象の優先順位付けや、監査リソースの最適配分を行うことで、無駄な監査を削減し、効率的な監査を実現できます。
- 組織全体の理解と協力: 中長期計画書を作成し、関係者と共有することで、組織全体で情報システムの重要性を認識し、監査活動への理解と協力を得ることができます。
中長期計画書の記載項目
中長期計画書には、システム監査を中長期的に推進するための重要な要素が記載されます。それぞれの項目について、以下に説明します:
No | 要素 | 説明 |
---|---|---|
1 | 中長期の監査方針 | 組織の経営戦略やリスク管理方針に基づいて、今後数年の監査の基本方針や目的を定めたものです。組織が重要視する監査の方向性(例えば、セキュリティ強化、コンプライアンス強化など)を示し、中長期的にどのような価値を監査が提供するかを明確にします。この方針により、全監査活動の統一性と一貫性が確保されます。 |
2 | 主要な監査対象領域 | 中長期的に優先して監査を行うべき情報システムや業務領域を指します。リスク評価や経営戦略を考慮し、組織にとって特に重要な領域(例えば、財務システム、顧客情報管理システム)などを選定します。これにより、監査のリソースを効率的に配分し、リスクの高い領域を重点的に監査することが可能です。 |
3 | システム監査技術者の人員計画 | 中長期的に必要なシステム監査技術者の人数や配置計画を示します。組織の監査需要やリソースの状況に応じて、必要な人員の確保や配置を計画し、監査業務を安定して実行できる体制を整えます。これにより、監査活動の持続可能性と質の確保が実現されます。 |
4 | システム監査技術者の人材育成計画 | システム監査技術者のスキルや知識の向上を目的とした育成計画です。最新技術の習得、リスク評価能力の強化、監査手法の研修など、監査技術者の成長を促進する内容が含まれます。こうした能力開発を通じて、監査の質と信頼性を向上させることを目指します。 |
5 | 予算 | 監査活動を行うために必要な経費を見積もり、必要な予算を確保するための計画です。人件費、教育費、ツールや設備の導入費などを含み、監査業務が適切に実行できるよう予算管理を行います。これにより、監査活動の効率性と継続性を支えます。 |
6 | 計画変更管理 | 経営戦略やトップマネジメントの方針が変更された場合、それに応じて監査計画を見直し、修正するためのプロセスです。これにより、組織の変化や新たなリスクに迅速に対応できるようになり、監査が組織の最新の方針や戦略と一致することを確保します。 |
これらの項目を通じて、中長期計画書は計画的かつ柔軟に監査活動を推進し、組織のリスク管理と情報システムの信頼性向上に貢献します。