4-1 プロジェクト作業の管理
概要
プロジェクト作業のパフォーマンスを測定して内容を適切に把握しながら,計画の実行に支障を来す兆候や現象が存在しないかどうか確認し,異常が発見された場合又は予想された場合には,その原因を分析し改善する。
異常が新たな要因や計画の想定外の要因によって発生した場合,当初の計画を維持することが最善とは言えないことがある。
プロジェクトの目的の実現のために,このような状況に柔軟に適応して,計画変更によってパフォーマンスの回復を図るなどの対応が必要となる。プロジェクトチームのメンバーの自律的な貢献でパフォーマンスを改善するために,プロジェクト作業の管理の技術をチームのメンバーに教育することも必要となる。
プロセス改善に影響する測定値及び傾向を評価するために,またパフォーマンスを改善するために,必要に応じてプロセスを変更する。これらの統合的な方法に基づいてプロジェクトの活動を完了する。
このプロセスをプロジェクトライフサイクル全体にわたり適用することによって,ステークホルダにプロジェクトパフォーマンスの正確な現状を説明する。パフォーマンス測定の頻度は,プロジェクトの規模,複雑性,リスクに応じて設定する。
- 引用元
- 情報処理推進機構 「プロジェクトマネージャ試験(レベル4)シラバス- 情報処理技術者試験における知識・技能の細目 Ver.7.1(2023年12月25日掲載)
- https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/nq6ept00000014gb-att/syllabus_pm_ver7_1.pdf
200字要約
プロジェクト作業のパフォーマンスを測定し、異常が発見された場合は原因を分析し改善します。新たな要因で計画が最善でない場合、柔軟に適応し、計画変更でパフォーマンスを回復します。チームメンバーに管理技術を教育し、自律的な貢献を促進します。プロセス改善のために測定値を評価し、必要に応じてプロセスを変更します。この手法をライフサイクル全体で適用し、ステークホルダに正確な状況を説明します。
リスク兆候の管理
プロジェクトのリスク兆候の管理は、プロジェクトの成功を確実にするための重要な要素です。兆候の管理とは、進捗状況や潜在的な問題を早期に察知し、適切に対応することでプロジェクトの遅延や失敗を防ぐための活動です。以下に、リスク兆候の管理についてのポイントを示します。
1. 進捗管理とモニタリング
- KPIとマイルストーンの設定
- KPI(主要業績評価指標): プロジェクトの進捗を定量的に評価するための指標を設定します。例としては、完了したタスクの数、進捗率、コストパフォーマンスインデックス(CPI)などがあります。
- マイルストーン: 重要な節目や成果物の完成時点をマイルストーンとして設定し、これらの達成状況を定期的に確認します。
- 定期的なステータス報告
- 定例会議: 定期的なステータス報告会議を開催し、進捗状況、課題、リスクについてチーム全体で共有します。
- ダッシュボード: リアルタイムで進捗を可視化するダッシュボードを活用し、重要な指標を常にモニタリングします。
2. リスク管理
- リスク識別と評価
- リスク登録簿: プロジェクト開始時にリスク登録簿を作成し、潜在的なリスクを識別、記録します。
- リスク評価: 各リスクの発生確率と影響度を評価し、優先順位をつけて管理します。
- リスク対応計画
- 回避策、軽減策、受容策: 各リスクに対して具体的な対応策を策定します。例えば、リスク回避のために追加リソースを投入したり、影響を軽減するために代替手段を用意するなどの対策を講じます。
3. 品質管理
- 品質基準の設定
- 品質目標: プロジェクトの成果物が満たすべき品質基準を明確にし、これに基づいて品質管理を行います。
- 定期的なレビューとテスト
- レビューと監査: 重要な工程や成果物について、定期的にレビューや監査を実施します。
- テストプロセス: 開発の各フェーズでテストを実施し、不具合や欠陥を早期に発見、修正します。
4. コミュニケーション管理
- 効果的なコミュニケーション計画
- コミュニケーション計画: プロジェクト開始時に、関係者とのコミュニケーション計画を策定します。これには、報告の頻度、方法、内容が含まれます。
- ステークホルダーの関与: 重要なステークホルダーとの定期的な対話を通じて、期待値の管理や問題の早期発見に努めます。
5. 変更管理
- 変更要求の管理
- 変更管理プロセス: 変更要求が発生した場合に、それを受け入れるかどうかを判断するプロセスを明確にします。
- 影響分析: 変更がプロジェクトに与える影響を分析し、スケジュールやコストへの影響を評価します。
6. 人的資源管理
- チームのパフォーマンス管理
- パフォーマンス評価: チームメンバーのパフォーマンスを定期的に評価し、必要に応じてフィードバックやトレーニングを提供します。
- モチベーション維持: チームのモチベーションを高めるための施策を講じます。これには、適切な報酬やインセンティブの提供、キャリア開発のサポートなどが含まれます。
進捗遅延の(早期)発見
1. 定期的なステータス報告
- 週次・月次報告: 定期的にプロジェクトのステータス報告を行い、進捗状況を確認します。これにより、遅延の兆候を早期に発見できます。
- ステータスミーティング: チーム全体で進捗状況を共有するための定例ミーティングを開催します。
2. KPIのモニタリング
- 主要業績評価指標(KPI): プロジェクトの進捗を示すKPIを設定し、これを継続的にモニタリングします。例として、進捗率や完了タスク数などがあります。
3. バーンダウンチャート
- バーンダウンチャート: 残りの作業量と時間を視覚的に表すチャートで、予定と実績を比較することで遅延の兆候を把握します。
4. アラートシステム
- 自動アラート: 進捗が計画より遅れている場合に自動的にアラートを出すシステムを導入し、早期に対応します。
5. 課題管理システム
- 課題トラッキング: プロジェクトで発生した課題を追跡し、解決状況を確認します。未解決の課題が多い場合は、進捗遅延の兆候となります。
定量的管理項目の例
No | 要素 | 説明 |
---|---|---|
1 | 進捗率(%) | 完了したタスク数を全体のタスク数で割り、進捗状況を定量的に示します。 |
2 | 完了タスク数 | 期間内に完了したタスクの数を追跡します。 |
3 | 実績工数 | 実際に投入された作業時間を記録し、計画工数と比較します。 |
4 | コストパフォーマンス指標(CPI) | 実際のコストに対する得られた価値を示し、コスト効率を評価します。CPI = Earned Value / Actual Cost |
5 | スケジュールパフォーマンス指標(SPI) | 画された価値に対する得られた価値を示し、スケジュール効率を評価します。SPI = Earned Value / Planned Value |
6 | バーンダウンレート | 一定期間内に消化される作業量を示します。 |
7 | リスク発生率 | 期間内に新たに発生したリスクの数を追跡し、リスク管理の状況を評価します。 |
8 | 欠陥密度 | 発見された欠陥の数を開発作業量(例えば、1000行のコード)で割り、品質を評価します。 |
プロジェクト管理の手法
クリティカルパス (Critical Path, CP)
概要
クリティカルパスは、プロジェクトの完了に必要な最長の一連の依存タスクを指します。このパス上にあるタスクは、プロジェクトの総工期に直接影響を与えます。クリティカルパス上のタスクが遅延すると、プロジェクト全体が遅延する可能性があります。
特徴
- 最長パス: プロジェクト完了までの最長の一連のタスク。
- 遅延の影響: クリティカルパス上のタスクが遅れると、プロジェクト全体が遅延します。
- 柔軟性の欠如: クリティカルパス上のタスクにはフロート(余裕時間)がなく、スケジュールに余裕がありません。
利用方法
- プロジェクト計画時にクリティカルパスを特定し、進捗を監視します。
- クリティカルパス上のタスクのリソースを優先的に割り当て、遅延を防ぎます。
PERT (Program Evaluation and Review Technique)
概要
PERTは、プロジェクトの計画とスケジュール管理のための統計的手法です。タスクの所要時間を見積もる際に、楽観的、悲観的、最も可能性が高い見積もりの3つを使用します。
特徴
- 3点見積もり: 楽観的見積もり(O)、最頻値見積もり(M)、悲観的見積もり(P)の3つを使い、タスクの所要時間を推定します。
- 期待時間の計算: タスクの期待時間は、(O + 4M + P) / 6 という式で計算されます。
- 不確実性の管理: 所要時間のばらつきを考慮し、不確実性の高いプロジェクトに適しています。
利用方法
- タスクの3点見積もりを行い、期待時間を算出します。
- 期待時間に基づいてプロジェクトスケジュールを作成し、クリティカルパスを特定します。
クリティカルパス法 (Critical Path Method, CPM)
概要
CPMは、プロジェクトのタスクをモデル化し、クリティカルパスを特定するための手法です。タスクの依存関係と所要時間を基に、プロジェクトの最短完了時間を計算します。
特徴
- タスクの依存関係: タスク間の依存関係を明示的に示します。
- 最短完了時間: プロジェクトの最短完了時間を特定します。
- フロートの計算: 各タスクのフロート(余裕時間)を計算し、クリティカルパス上のタスクを特定します。
利用方法
- タスクの所要時間と依存関係をリスト化します。
- ネットワーク図を作成し、クリティカルパスを特定します。
- フロートを計算し、スケジュールの柔軟性を評価します。
クリティカルチェーン法 (Critical Chain Method, CCM)
概要
CCMは、リソース制約を考慮したプロジェクトスケジュール管理手法です。リソースの有効利用とバッファ管理を重視し、スケジュールの信頼性を高めます。
特徴
- リソース制約の考慮: リソースの制約を考慮してスケジュールを作成します。
- バッファ管理: プロジェクトバッファ、フィーディングバッファ、リソースバッファを設置し、予期せぬ遅延に対応します。
- 集中と完了の重視: タスクの開始を遅らせず、集中して完了させることを推奨します。
利用方法
- タスクと依存関係、リソース要件をリスト化します。
- クリティカルチェーンを特定し、バッファを追加します。
- バッファ消費状況を監視し、進捗を管理します。