1-6 情報セキュリティに関する動向・事例の収集と分析
概要 (引用)
情報セキュリティに関する事件・事故,傾向と背景,攻撃の手口,脅威,脆弱性及び対策,セキュリティ技術などの情報を収集する。
情報セキュリティに関する法令,規制,規格類の制定・改廃や社会通念の変化,コンプライアンス上の新たな課題などについて把握する。
収集した各情報について,組織内への影響,対応の緊急性,対応の費用・効果・必要性を評価し,報告する。
要求される知識
・ JIS,ISO,IEC,IEEE,NISTなどのセキュリティ関連の規格の動向に関する知識
・ 業界標準,ガイドラインの動向に関する知識
・ サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)に関する知識
・ 攻撃の手口に関する知識
・ 攻撃の分析モデル(サイバーキルチェーン,ATT&CKなど)に関する知識
・ 脅威インテリジェンス(OSINTなど)に関する知識
要求される技能
・ 国内外の様々な情報源(公的機関,セキュリティ機関,ベンダからの発表,カンファレンス,論文など)から,必要な情報を,迅速にかつ継続的に収集する能力
・ 収集した情報の信頼性,正確さを検証する能力
・ 収集した情報を整理し,関係者に伝達する能力
・ 収集した情報に関して,組織内への影響などを評価する能力
- 引用元
- 情報処理推進機構 「情報処理安全確保支援士試験(レベル4)シラバス- 情報処理技術者試験における知識・技能の細目 Ver.2.1(2023年12月25日掲載)
- https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/nq6ept00000014ir-att/syllabus_sc_ver2_1.pdf
セキュリティ関連の規格の動向に関する知識
セキュリティ分野では、JIS、ISO、IEC、IEEE、NISTなどの各種標準化団体が策定する規格が、情報セキュリティの対策・設計・運用における指針として広く活用されています。
これらの規格の動向に関する知識は、情報処理安全確保支援士にとって重要です。以下に主要な規格団体ごとの概要と動向を説明します。
1. JIS(日本産業規格)
- 概要:日本国内で統一された工業・技術の国家規格。ISO/IEC規格を翻訳・適用するケースが多い。
-
セキュリティ関連例:
- JIS Q 27001:ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)に関する要求事項
- JIS Q 15001:個人情報保護マネジメントシステム(PMS)
-
動向:
- ISO/IECの改訂に追随して日本語版が更新される。
- DX・クラウド・IoT対応を意識した改訂も進行中。
2. ISO(国際標準化機構)/IEC(国際電気標準会議)
- 概要:グローバルに通用する国際規格を制定。情報セキュリティは共同で「ISO/IEC」名義で策定される。
- 代表的な規格と動向:
- ISO/IEC 27001(ISMS):2022年に改訂。リスク対応策の整理や統合が進む。
- ISO/IEC 27002:管理策ガイドライン。2022年版では制御分類の見直しが行われ、クラウドや物理セキュリティ対策が拡充。
- ISO/IEC 27701:プライバシー情報管理(PIMS)対応。個人情報保護への国際的対応を反映。
- ISO/IEC 27017 / 27018:クラウドセキュリティ・クラウドにおける個人情報保護に特化。
- 今後の注目点:
- AIガバナンス、サプライチェーンセキュリティ、ゼロトラスト関連規格の策定。
3. IEEE(米国電気電子学会)
- 概要:ハードウェア・ネットワーク・ソフトウェアに関する工学的な標準を策定。
-
セキュリティ関連例:
- IEEE 802.1X:ネットワークアクセス制御(無線LANなどの認証技術)
- IEEE 1686:産業用制御システムのセキュリティ機能要件
-
動向:
- スマートグリッド、IoT、5G、AIとの連携に関するセキュリティ規格が活発化。
- サイバー・フィジカル・システム(CPS)の保護規格の議論が進展中。
4. NIST(米国国立標準技術研究所)
- 概要:米国政府が主導する技術基準策定機関。NISTのフレームワークは世界的に高い信頼を持つ。
- 代表的なセキュリティ文書:
- NIST SP 800-53:セキュリティ・プライバシー管理策のカタログ
- NIST CSF(サイバーセキュリティフレームワーク):リスク管理指針。2024年に「CSF 2.0」がリリースされ、ガバナンスとサプライチェーンへの対応が強化された。
- NIST SP 800-171:民間事業者向け機密情報保護要件(CMMCにも関連)
- 動向:
- ゼロトラスト、量子耐性暗号、AIセキュリティへの対応が進行中。
- サイバーセキュリティガバナンスの明確化が意識されている。
情報セキュリティに関する動向・事例の収集と分析について
情報処理安全確保支援士における「情報セキュリティに関する動向・事例の収集と分析」とは、日々進化するセキュリティリスクに対応するために、最新情報を体系的に収集・評価し、組織の安全対策に役立てる活動です。
以下のように整理されます。
① セキュリティ情報の収集
支援士は、以下のような情報を多角的に収集します。
- インシデント事例:マルウェア感染、情報漏えい、ランサムウェア攻撃などの事件・事故。
- 脅威・攻撃手法:フィッシング、ゼロデイ攻撃、サプライチェーン攻撃など。
- 脆弱性情報:ソフトウェアや機器のセキュリティホール(例:CVE情報)。
- 技術動向:最新のセキュリティ技術、製品、標準プロトコル。
- 法令・規制・規格:個人情報保護法、サイバーセキュリティ基本法、ISMS、NISTなどの制定・改正動向。
- 社会的要請・通念:コンプライアンスに関する社会の期待や倫理的観点。
② 情報の分析と評価
収集した情報をもとに、次の観点で組織への影響を分析・評価します。
-
組織内でのリスクの有無と重大性
例:対象の脆弱性が使用中のシステムに該当するか。 -
対応の緊急性
例:外部公開されたサーバに対する脅威であれば即時対応が必要。 -
対応策の費用対効果・必要性
例:パッチ適用によるシステム停止のリスクと対策コストの比較。
③ 組織への報告と助言
分析結果は、経営層や関係部門に向けて的確に報告・助言し、組織のセキュリティ方針や対策計画に反映させます。
例えば:
- 優先的に対応すべきセキュリティリスクの提示
- 法改正に伴う社内規程の見直しの提案
- セキュリティ教育や訓練の必要性の提言
まとめ
情報処理安全確保支援士は、情報セキュリティの変化に機敏に対応するために、日々の情報収集と的確な分析・評価を行い、組織の安全性と法令遵守の両立を支える役割を果たします。
これは、単なる知識の保持にとどまらず、リスクマネジメントの実務に直結する重要な活動です。